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interview #03 高橋和樹

高橋和樹選手がボッチャを始めたのは2014年のこと。それからたった2年で日本代表入りを果たし、リオデジャネイロパラリンピックに出場。そこでの敗北をバネに、東京パラリンピックに向かう。プレーで大事にしていることや、ボッチャの魅力までたくさんお話いただきました。

氏名:       高橋 和樹(たかはし かずき)
クラス:    BC3
生年月日:  1980年2月3日
出身地:    埼玉県
所属:       株式会社フォーバル
主な成績:
・日本選手権 2位 (2018)
・BISFed2018 ワールドオープン ドバイ大会 ペア戦2位 個人戦3位
・BISFed2019 ワールドオープン パヴォア大会 個人戦4位

――まず始めに、高橋選手がボッチャと出会ったきっかけを教えていただけますか。

高橋選手:東京パラリンピックの開催が2013年に決まったとき、『パラリンピックに出たい』と思ったんですね。それで、いろいろ調べたときに、出られるのがボッチャだけだった、という、ネガティブに言うと消去法だったんですけど、それが始めたきっかけです。

最初はボッチャのほかにも車いすバスケとかラグビーも見に行きました。だけど自分が抱えている障がい的に厳しかったり、世界大会までしかなかったりで。それでボッチャしかないな、と思ったんです。そして、パラリンピックを目指す環境を探しました。そうしたらたまたま県内に強いクラブがあって、みんな真剣で、自分よりも障がいの重い選手にも負けてしまって。そこでどうやったら勝てるんだろう、と考え始めたんです。それで今まで続いている、という感じです。

――そういうスタートだったんですね。

高橋選手:はい、なので、パラリンピックが東京に決まっていなかったら、競技はやっていなかったです。東京での開催によってボッチャと出逢うことができ、世界を目指す人生に変わりました。

――最初に、なぜそれほどまでに東京パラリンピックに出たいと思われたのですか。

高橋選手:以前やっていた仕事が、バリアフリー化を進めるための活動をしているNPO団体でした。そこでどうやったらもっと社会を変えていけるんだろう、と考えたときに、アプローチの仕方を変えないといけない、とは思っていました。そう考えていたときに、ちょうど東京パラリンピックの開催が決まったんです。もし自分が東京パラリンピックに出たら、当然いろんな人が名前を知ってくれるだろうし、そうなったら車いすの存在とか、障がいのある人のこととかを広めるのに最適だな、と思ったのが大きな理由ですね。

――自分が表舞台に立って、バリアフリーを呼びかけていこうというイメージだったのですね。

高橋選手:そうです。東京パラリンピックを目指すようになる前までは、講演などの活動のあとにもらうアンケートなどには「車いすに乗って障がいを持っているのに頑張っていてすごいと思いました」とか、「大変なことを乗り越えて頑張っているな、って思いました」という、感想をもらうことが多かったのです。何かは伝わっているんですが、自分が見られたいと思っている姿はそうじゃない。車いすや障がいがあってもなくても、この人はすごいとか、あの人は格好いいとか、ああなりたい、とか、そういうふうに見られたい、という気持ちがあったわけです。それで、障がいのある人がそうやって見られるためにはどうしたら良いのかを考えたら、一番対等に見てもらえるのはスポーツの世界だと思ったんです。

――最初、消去法で選んだのがボッチャだとおっしゃっていましたが、そのなかでボッチャという競技にのめり込む瞬間はあったのでしょうか。

高橋選手:最初は思い通りにいかないところにハマりましたね。はじめてボッチャをやったとき、クラブの選手とやって負けて、なんで勝てないんだろうということを考えて。それで勝つためにはボールのコントロールとか、BC3クラスなので用具の調整とかいろいろ必要になることも分かって、でもそれを自分なりに頑張っても思うようにボールが転がってくれないんですよ。かといって、ボールがうまく転がったとしても勝てないですし。

それで、うまい選手の試合を見たり話を聞いたりして、技術などで盗めるところは盗もうと思ってやってみても、その人みたいにうまくできない。そういった奥深さにハマったという感じですね。

――うまくいかないことも楽しめているのかな、と感じたのですが、プレーがうまくいかなかったときの気持ちの切り替えや意識をしていることはありますか。

高橋選手:うーん……どうしたらうまくいくか、ということを延々と考えていくだけなので、あまり意識して切り替えて、ということはやっていませんね。自分はもともと柔道をやっていたんですけど、そのときもどうしたら強くなれるか、と考えたら、まずは強い人ととにかく練習することだと考えていました。そこから盗めることを盗む、ということをずっとやってきました。なので、ボッチャをやり始めたときも、どうしたら強くなれるのか、ということばかり考えていました。練習に行ったら、クラブのいちばん強い人にいつも相手をしてもらって、ずっと練習して、帰り道にアシスタントの方と一緒に何がダメだったか、何が良かったかを話し合って……。ずっとその繰り返しですね。なので、あまり落ち込む、というのが始めの頃はなかったですね。

――普段の練習の環境や、練習の内容を教えてもらえますか。

高橋選手:ボッチャを始めたときと、基本的なテーマとして実践練習を多くやる、というのはずっと変わりません。相手がいるときは、ひたすら実践練習を繰り返す。ひとりのときは、ボールを精度を高めたり距離を出したりする感じです。

――数ミリ単位で競うなかで集中力を維持する秘訣やルーティンなどはありますか。

高橋選手:ルーティンはそんなにないですね。食事や試合前の休養の取り方など、自分なりにいろいろ考えていろいろ試していることはあります。たとえば試合前のこの時間にこのゼリーを食べたら調子が良かったから、次も試してみることもあります。でも負けたら辞めることもありますし。いろいろ試しながら、という感じです。だから、決まったルーティンというのはありません。試合当日に朝起きたらこういう動きをして、こういう感じで試合の何分前にはこうして、ということがざっくり決まっている、という感じですね。

ボッチャの場合、試合が続くときと間があくときがあるので、ルーティンを作ってもできるときとできないときがあるんです。試合時間が空くときは、何分前にコートでこのくらい練習して、こうして身体を休めて、水分とか栄養摂って、ってできるんですけど、試合が続くとできなくなってしまう。以前、それで結構痛い目を見てしまったので……。ボッチャは臨機応変に対応できるほうが強いんじゃないかと思います。

――ご自身のストロングポイントはどこにあると思いますか。

高橋選手:実際できているできていないは別として、これまでの経験や知識からあらゆる状況の中でもシンプルに高い精度で的確にこなしていけるプレースタイルを強みの1つにしています。

ボッチャって、さまざまな戦略や攻め方というのがあるんです。でもあれこれ考え過ぎて、この場面でこれをやろうとか、こうなったらこういう攻め方をしようとかを考え過ぎると、結果的にミスをして傷口を広げてしまうことがあるんです。

自分はシンプルこそが1番強いのではないかなと考えていて、的確に、精度良く攻めて、弾いて、寄せて。そういうシンプルなことができることが大事。ジャックボールを投げる距離なども自分で基本的な場所があって、そこから何年も変わっていないんです。ほとんどの選手は相手によってそれを替えているんですけど、自分は基本的には変えないようにしています。

どんな状況でも自分のプレーがぶれないようにすること。それができているできていないは別にして、それが自分が意識して取り組んでいることです。

――前回のリオデジャネイロパラリンピックではボッチャがメダルを獲得して、世間の認知度が上がったと思います。高橋選手が始めたきっかけとして社会に影響を与えたい、とおっしゃっていましたが、それも含めて東京パラリンピックに期待することはありますか。

高橋選手:広く言えば、やっぱり東京パラリンピックをきっかけに、オリンピックだけではなく、パラリンピックというスポーツにも注目してもらって、知ってもらって、少しでも身近に感じてもらうこと。そして、障がいのある人と交流するきっかけになったり、接点を持ったりしてほしいなと思っています。

やっぱり、障がいのない人からしたら、障がいのある人との接点というのは、あまりありませんよね。そういう接点を持つ大きなひとつのきっかけにはなるだろうな、と思っています。

あともう少し狭く言えば、ボッチャの知名度は上がったんですけど、BC3クラスというランプを使って戦うクラスがある、という知名度はめちゃくちゃ低いんですよ。だから、その知名度を上げることが、東京パラリンピックの内定をもらっている自分の使命でもあると思っています。

間違いなく火ノ玉JAPANが一丸となって東京パラリンピックを戦っていくなかで、ほかのクラスがメダルを獲ってくれることは信じていますし、ただそれで終わりじゃない。やっぱりBC3クラスの存在を知ってもらいたいですし、広めたいという思いがある。そのための結果、そのための戦いをしたいというのが、東京パラリンピックへの思いですね。

――BC3クラスをもっと知ってもらいたいのですね。

高橋選手:テレビなどでボッチャが取り上げられたあととかに、こういう競技があるって知らなかった、とかインターネットに書いてあったり、SNSに書いてあったりするんですが、そのなかにランプを使って戦うBC3クラスというのがある、ということは知られていない。それを知ってもらえたら、「え、ボッチャってそんなに奥深いの?」っていうように、どんな競技なんだろうって興味を持ってもらえると思うんです。そうやって認知度を上げるきっかけを自分たちが作りたいですね。

――高橋選手が思い描く、チーム一丸となる、というのはどういう感じなのでしょうか。

高橋選手:コロナ禍で感染予防の観点からも合宿はクラスごとであったり、練習環境などにも制限がある中ではありますが、選手やスタッフ、みんなが同じゴールを向いている、それは一緒に練習していようが離れていようが関係なく、みんなの心は近くにあっていつも繋がっている。
応援してくれている人たちに対する感謝の気持ちを忘れずに、目標として掲げている「全クラスメダル獲得」に向けて火ノ玉JAPANの1人1人が全力を尽くし力を合わせることだと思います。

――ありがとうございます。あらためて、東京パラリンピックで金メダルを目指すなかで、ご自身のここを見てほしい、というところはありますか?

高橋選手:自分のここをというよりも、BC3クラス自体の多くの選手のプレーを見てもらいたいです。個人にしてもペアにしても、選手によってプレースタイルってみんなそれぞれ。ボールもそうですけど、アシスタントとのコミュニケーションの取り方やリリースの仕方とか、ランプの使い方とか。そういう、同じクラスの中でもさまざまあって、自分の使えるものをフル活用してプレーしている姿、というものを見てほしいですね。

――最後に、ボッチャファンに向けてひと言お願いします。

高橋選手:ボッチャの良いところは、パラリンピックのイベントなどでは、ほぼ必ずといって良いほど体験できるスポーツなんです。ボッチャを体験できる場所、というのはたくさんあるので、ぜひ体験していただいて、ボッチャの気軽さというか手軽に楽しめるところとか、反対の難しさとか、そういうボッチャの奥深さを経験してもらって、いろいろ感じてもらいたいな、というのがあります。そこからボッチャに興味を持ってもらって、また今度は火ノ玉JAPANを応援してもらえたらと思っています。

――ありがとうございました。

constitution 田坂友暁 / photo 松川智一 / interview 阿部倫太朗
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